所詮は他人

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「・・三谷家先生に借りを作ってしまいましたからね」 「言い方(笑) あいつはそんなこと借りとか思わないよ。というかそれより。三谷家が言ってたけど・・・お前、心臓」 「え・・。しゃべったんですかあの人。まったく。守秘義務ですよね。一応子どもの頃にオペしてるし・・・」 「そう言う問題じゃないだろ・・・。大人になってまた調子悪くなる人も多い」 来宮は面倒くさそうな顔をする。 「分かってますよ。ほんと、お二人同じこと言いますよね」 来宮は三谷家からも同じようなことをしつこく言われていた。来宮は先天性心疾患を持って生まれ幼少期にオペをした経験があった。先日のふいの入院で行った検査でまだ命に関わるほどではないが弁の異常が見つかり循環器外科医である三谷家はしきりにオペを進めてきたが来宮はとりあえず断っていた。 「気持ちは分かるけどさ・・・。カテならリスクも高くないし、若くて状況の良いうちにやっておくほうがいいぞ」 「・・・・。ていうか久保先生、そんなこと言いに来たんですか」 「え。ああまあ。いや。あのさ・・・。21歳、2か月の妊婦なんだけど。健康だし非常に順調なんだが・・・。産みたくないと言っている」 「・・・最近多いですね。あの事件の後、中絶希望者の受診が増えていますね」 「ああ、そうなんだが・・・。産みたくない理由が。どうしても許せない人の子どもだって言うんだよ。」 「・・・相手はなんて言ってるんですか」 「相手は、もうどこにも居ないと。どう思う」 「・・・。そんなの後から後悔するかもしれないなんて考えだしたらきりがないですよ。最終的には彼女の意志ですからね・・・。先生、あんまり深く考えると疲れてまた老けますよ」 「・・・うるせえよ」 「仕方ないですよ。所詮、患者にとって俺たちは他人でしかないんですから」 そう言うと来宮は席を立った。久保は来宮の言葉を考えていた。 「・・・所詮は他人。そうだよな。他人なら良いんだけどな・・・」 そう呟き、久保も食堂を後にした。
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