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占い小屋
坂原は事務所を出た後、水野の繁華街にあるボロ汚い占い小屋に向かった。そこは昼間は賑わいの少ない路地のビルの地下にある。
「いらっしゃーい。今日は臨時休業・・って、坂原くんじゃない」
「お久しぶりです。相変わらず派手っすね」
「うるさいわね。あいつが派手好きだったんだから仕方ないでしょ」
「そうっすね」
「で、坂原くんが今のうちの状況を知らないわけないわよね」
「はい。そのことで話があってきました。」
「なに」
「温田さん、風俗店の男と口論になった末に殺されるような人ですかね」
ニュースでの発表によると温田は風俗店に行った際にスタッフと口論になりそのまま殺されたのだという。
「何が言いたいの」
「いや。なんか、納得いかないなって」
「坂原くん。温田のこと、嫌いだったじゃない」
「ええ。人間的には。でもどうしてもあんな死に方をする男とは思えないんですよ。職業柄、一度そう思ってしまうと、相手がどうとか関係ないんですよね」
「・・あたしもそう思うわ。第一、温田はホテルに呼んでいるだけだったからその時点でスタッフと揉める可能性が低い。というより、そんな度胸のある男とは思えない」
「じゃあやっぱり不審に?」
「まあね。でもあたしはこれ以上詮索するつもりはないけどね。死んだ奴はいくら詮索したって戻っては来ないんだから」
「ここ。どうするんですか?」
「明日には閉めるわよ。坂原くんともこれでお別れ。きっと二度と会うことは無いわね」
「・・そうですね」
「坂原くんはせいぜい頑張って」
受付嬢にそう言われて坂原は小屋を後にした。そしてその足で水野警察に向かった。あたりはそろそろ暗くなりにぎわい始めていた。
坂原が待ち伏せするように立っているとお目当ての人物が出てきた。急いで追いかけて声をかける。
「深川さん」
深川と呼ばれた男は立ち止まり振り返る。
「お前」
「探偵の坂原です。この前はどうも」
「なんだよ。」
「率直に言います。温田守について話を聞かせてください」
「断る」
深川はそう言って歩き出してしまう。
「それだけではなく。磯山菜穂のことも聞かせてください」
そこまで言うと深川は立ち止まりじろりと坂原を見る。
「磯山さんのことは僕も知ってもいいと思いますけど」
坂原がそう押すと深川は諦めたように坂原に寄ってきた。二人はそのまま夜の水野の街に消えていった。
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