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駆け落ち
凛久は水野の静かな通りにあるカフェへと急いでいた。
「ごめん。遅くなった。」
「ううん全然。ごめんね。面倒なこと頼んで」
そこで凛久を待っていたのは彼氏の失踪を相談した友人・朝井比奈だった。凛久は適当に珈琲を頼み、さっそく本題に入る。
「ごめん。なんか別の問題が起こって、坂原さんに軽くあしらわれちゃった・・」
「当然だよ。言って2,3日な訳だし。でも、今までこんなことなかったから」
「うん。なんかあったらね・・・」
「・・・あのね」
比奈が深刻な顔をして話し始める。
「実は・・・・彼には大事な人がいるの」
「大事な人?」
比奈は頷いて、スマホを取り出す。
「この人」
比奈に見せられた写真に写っていたのはあどけない笑顔の少女だった。しかしその笑顔はその若さには似合わずどこか寂しげだった。
「この女は・・・誰なの?」
「分からない。でも、家族とかそう言う感じでもなさそうだった。」
「それって・・・。でも、比奈に話してるってことはやましい関係の相手ではないってことよね」
「話してくれたその時はそうだったんだと思う。あたしさ・・・彼はこの彼女と駆け落ちしたんじゃないかと思うの」
「・・・そんな」
怒りを爆発させようとした凛久を押さえて比奈は笑う。
「いいの。本当に子どもの頃から大事な人みたいだったし。ただ、こんな憶測で離れてしまうのは私も嫌だし・・・。どうしても本人から話が聞きたい。もし、何か困ってるなら助けになってあげたいし。だから凛久お願い。探してほしい」
その話を聞いて凛久は目を閉じて呆れる。
「まったく。あんたってどこまでお人よしなのよ。・・・・・・仕方ないな・・。その女、名前はなんていうの」
「確か・・・ユイ。真柄ユイ」
「分かった。後でその写真送っといてくれる。それじゃ、何か分かったら連絡するから」
凛久はそう言って足早に店を出る。比奈は祈るように目を閉じてから、凛久に写真を送った。
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