瞬間、世界が割れて

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   私は思わず、はあ、と息を漏らしていた。  真剣に、彼の方を向き直る。 「……見方を変えれば、人生は変わるってことですか?」 「そうですね。見方を変えれば、人生も、世界もきっと変わりますよ。つらかったデザインがまた楽しいものにもなるし、ガスった頂上を残念がらずに雲の幻想的な重なりを味わえるようにもなるし、興味の無かった年下の男を好きになるようなこともあるってことですよ」  私はそれを聞いて、少し間を置いて、はあ? と呆れた声を出してしまった。彼はそれを聞いて、また子供っぽく笑ってみせた。  ……そんなにうまくいかない。人生いろいろなことがあって、そう簡単にはいかないよ。  そう思ったが、少し息をするのが楽になった気がした。  彼は広げていた諸々の道具をバッグにしまうと、さて、とひとつ息を吐き立ち上がった。 「しばらくは一本道ですから、ピストンで帰るなら時間的にもう出た方がいいですね。よければお送りしますよ。水場が近いから、寄って行きましょう」 「……え?」 「水、もうカラなんでしょう? ザックがすごく軽かった」  私は、下に置いてきた自分のザックを振り返る。  手に持てば、この高山に登るには異様に軽装備だと分かるだろう。実際、いつもは持ち歩いている2リットルの水も、着替えの服も、行動食もレインウェアも、全てを家に置いてきていた。 「……親父はね、三年前にここから飛び降りたんです。奇跡的に軽傷で済みましたが、僕は親父が登山出発前に見せた、仕事に追い詰められていたその虚ろな瞳を、忘れられません。以来、何かを抱えて登山をしているな、と思った人には声を掛けているんです」  
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