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眠りの番人
一
チェルシーおばさんの家を後にして、アメリはひとり、日の燦々と降る道を歩いていました。こんなに毎日は美しく過ぎるのに、パパの手紙が来ないのはどうしてなのでしょう。アメリの踏みだす一歩一歩に、その問いかけは染みて跡になるのでした。
「アメリ」
呼ばれてアメリは、辺りを見渡しました。草原の向こう、岩に腰かけ手を挙げている、白髭と羊の毛にまみれた深いガウン。眠りの番人でした。アメリが走って行くと、番人は杖をついて立ち上がりました。番人の足元では、哲学者がひっきりなしに本を読んでいました。小さく丸まって眼鏡をして、それでもまだ眼を近付けて、彼は字を追っていました。番人はそれを隣に立って見ているのでした。
「やぁアメリ、近ごろ窓から遠くを眺めているね。夜明けにどうしたのかと思っておったんじゃ」
そう今朝、羊を追うあの影法師のような番人の姿を見ていたのに、それが遥か遠い昔のように、アメリには思えました。ひとりでいるのと人といるのとでは、世界はしばしば様変わりして見えるものです。
「私は、待ってばかりよ」
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