眠りの番人

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アメリは涙が溢れてくるのを止められませんでした。番人は何も驚かず、優しく笑ってアメリの頭を撫でました。哲学者はそれにも気付かずに本を読んでいました。 「おやおや、わしのほうから訪ねて行けば良かったね。すまないことをした」 「いいえ、番人、私が不安なだけなの。ただこんな時どうすればいいのか」 「わしのところへ来ればいいんじゃよ、アメリ」 番人の顔を見てアメリは、初めからそうすべきだったと思いました。 「どれ、話を聞こうかね。そうじゃ、ちょうど良い、わしの相棒に会っていきなさい。わしはもう遠出もあまりしなくなった身じゃが、彼はきっと君の力になってくれるよ」 「相棒?」 番人は何も言わず、静かにウインクしました。 眠りの番人は、牧場の片隅の森に住んでいます。気ままに眠り草を食む羊の群れを横切り、苔むして湿った大木の玄関へ向かうとき、傍にぼろぼろの傘をさした少年が座っているのにアメリは気づきました。今まで幾度も番人の家を訪れていたのに、一度も会うことがなかった少年でした。 「あなたは?」 アメリは問いかけましたが、少年に反応はありませんでした。雨も降っていないのに、まるで土砂降りのなかにいるようにしっかりと少年は傘を握り、まんまるで虚ろな右目は空を、左目は夢を見ているようでした。そして少年は、食べることを忘れたようにやせ細っていました。     
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