プロローグ

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 今日は朝から太陽がまぶしく、昨日まで冴えない雲が空を覆っていたのが信じがたいほどの晴天だ。  学校の庭に植えられた桜の木々は、新入生を歓迎するかのよう華やかにピンク色をほころばせ、穏やかな風に花びらを舞わせている。  春にふさわしい景色のなか、校舎までの道を歩んでいくのは、おろしたての制服を身に纏い、緊張の面持ちの新入生。そして、身ぎれいによそいきの格好をした保護者たち。  加えて、「なんで俺たちまで来なきゃならねえんだ」「もっと寝ていたい」「一年坊主になんか興味ねえ」という眠たげな顔を隠そうともしない不届きな連中は、在校生一同だ。  公立西野川高等学校は、本日第四十八回目の入学式を迎えている。  校舎に向かい歩き行く群衆のなか、伊藤映一(いとうえいいち)は、ピカピカの制服と真新しい鞄、靴を身に纏い、ついでにメガネまで新調して、絵に描いたような新入生だった。  ワックスでツンツンに固めた頭髪は本人にまるで似合っていないが、そんなことは気にしていられない。  なんせ、口から心臓が飛び出そうなほど緊張している。  十五歳にして百八十三センチという巨躯で、そのうえ体つきもがっしりとしているにも関わらず、映一はとんでもない小心者だ。  今日は両親が仕事で不在、ひとりきりの単身入学式だが、そんなことはどうでもいい。むしろ、息子の雄姿にはしゃぎがちな人たちが居ないことは、映一にとって都合がよかった。  では何が不安なのか。  それはズバリ。 「………友達出来るかなぁ………」  映一はこれまでの中学生活において、いわゆる“友達”が少ない人種なのである。  図体はデカイが、控えめでおとなしい。不安になると筋トレをしてしまう趣味があるが、実際は虫も殺せないほどのメンタルだ。  友達は皆無ではないが、幼稚園からずっとつるんできた「よっちゃん」と「ゆうくん」は他校にいってしまった。中学はこの二人がいたからまだ馴染むことが出来たけれど、今回は正真正銘のひとりきり。  これで不安を覚えないわけがない。  その上、不安はそればかりではなかった。  と、いうのも。 ――友達にするなら、できればアニメ「まじかる☆アイドルっ♪」を見ている人がいいなぁ…。  映一は筋金入りのオタクなのだった。  その上、オタク以外の人間とはろくすっぽ口を利いたことがない、超人見知りなのであった。
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