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べつに友達になってくれるのならオタクじゃなくても構わないし、大好きなアニメ「まじかる☆アイドルっ♪」が好きでなくてもいいのだが、同じアニメが好きなオタク以外とろくに会話をしたことがないから、一般人はハードルが高い。
誰か気が合いそうな人は居ないものか――と、校舎まで数メートルの桜並木の下をぐるりと見回してみる。
スマフォをいじりながら楽しげな女生徒たち。女の子はコワイ。却下。
爽やかそうなスポーツ刈りの男子たち。運動部はオタクに理解のない人が多かった。却下。
賢そうなメガネの男子。ああいうのは理解もありそうだけれど、お堅くって、映一が好きなアイドル系アニメは軽蔑してくるかもしれない…。却下。
失礼なことを脳内で考えながら、次々判断をくだしていく映一。
仲良くなれそうな人がいたところで、声をかけられるような度胸はないのだが、色々な人たちを観察してしまう。
「…あ」
ふ、とある人に目を留めたのは、その人物のことをよーく、よおおおおおおく、知っていたからだ。
しかし、その人はここに居るわけがない。わかっている。わかっていたが、あまりのことに脳味噌は動きを停止し、鼓動がバクバクと早鐘を打った。
その人は映一の熱視線にも気付かず、眠たいのか大あくびをしている。そういうしぐさは見慣れた人物とは違いだった。
けれど、襟足短めに散髪されたボーイッシュな雰囲気の黒髪、凛と澄んだ切れ長の双眸、薄めで扇情的に赤いうつくしい唇に、制服からのぞく色白の肌は、どう見ても、“彼女”に瓜二つだ。
考える前に、勝手に身体が動く。いつも理屈で動く映一にはほとんどはじめての経験だった。戸惑う暇もなく、バクバクとうるさい心臓に任せて、その人物の前に立つ。
あくびで滲んだ涙をぬぐっていたその人は、映一の存在に気付いて思い切り怪訝な顔を浮かべた。
映一はたまらずに声をあげる。
「き、き、桐谷ちとせさん…!」
桐谷ちとせ。
十六歳、女子。
映一がこの世でもっとも好きな女性の名前だ。
感極まり、いっぱいいっぱいになる映一の前で、相手は思いっきり不審な顔を浮かべ、それどころかドスのきいた低い声で「ハア?」と呟いて、ガラの悪い態度を隠しもしなかった。
それもそうだろう。
桐谷ちとせは、「マジカル☆あいどるっ♪」に登場するヒロインのひとり。
つまり、架空のキャラクターなのだった。
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