スルノア王宮防衛戦

2/23
245人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
外は嫌になるくらい晴れ渡っていた。宮殿から出たばかりの目に直射日光がささり目を細める。そのまま手をかざして見上げると障害となる雲は一つもなく、眩しい太陽の光は爛々と輝いていた。 敵にも味方にも見通しのいい実に戦闘日和の日だ。そんな言葉があるのなら。 「只今歩哨から報告がありました! 敵軍の先頭が森を抜け、まもなく肉眼でも見える距離かと!」 僕とさほど年の変わらない伝令係の若い兵士が近距離にいるにも関わらず声を張り上げた。 「うむ。では陣の展開を。ハルト殿、準備はよろしいですか?」 フェルセン副大臣は颯爽と軍馬に跨がった。カロリナが後衛にいるため、指揮は副大臣が担う。 「もちろんです。カロリーナ様に合図をお願いします」 「了解」 副大臣が後ろにそびえ立つ王宮に向かって腕を大きく上げると同時に、空から強迫的な激しいピアノの旋律が降り、地面から火が噴き上がった。ユラユラと揺れる炎は、まるで蝋燭に火を点すように次々と隣へと波及していく。赤い絨毯が宮殿をぐるりと一周すると、一際強く鍵盤が弾かれ、青空のある一点に向かって次々と火柱が伸びていき、総勢300人をすっぽりと収めるほどの巨大な赤色の半円を創り上げた。 この場に集った多くの人が、カロリナの力量をいかんなく発揮したその現象に釘付けになっていた。これが戦争でもなければ大拍手が沸き起こるところだろう。 その代わりに副大臣の号令が響くと、全員が予定された配置へと足早に移動していく。 「では、私も行きます」 僕は制服のポケットにヴェルヴとリベラメンテがあるのを確認すると、指定の位置へと足を向けた。一歩一歩確かめるように王宮から遠ざかっていく。次第にピアノの音も喧騒も小さくなり、通り抜ける風の音と微かな地面の振動が大きくなっていった。進軍してくる足音だ。 まるで生き物のように蠢く炎の壁のギリギリ手前まで近づくと、ヴェルヴにカロリナの魔法を込めた火と水のリベラメンテをそれぞれはめる。紅と碧で彩られた短剣が姿を現した。 随分と久し振りな気がするその色と、爽やかな空気、そして微かに聞こえるカロリナの演奏が、自然とここに来てからの何ヵ月間かを思い起こさせる。 いつの間にか当たり前になった日常。まだまだわからないことは多いが、もっとずっとこの世界を見てみたい。そのためにはーー。 地を蹴る音が鮮明になる。敵影がその姿を現した。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!