スルノア王宮防衛戦

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そう、ルイスとの戦いではこのマグマの現象が決定打となった。 マグマの渦は敵を呑み込もうと襲い掛かった。まだ姿がはっきりと見えない先頭集団に紅蓮の塊が降りかかるーーその瞬間に、しかし敵の集団は進路を変えて左右に分散した。 「ウソ!」 分散が間に合わなかった先頭の数体はマグマに呑み込まれたが、それ以外は被害を免れ突き進んでくる。まるで、こちらの攻撃を読んでいたかのように。 「ルイス! 風を起こしてくれ! できるだけ広範囲に!!」 「え、ええ!」 戸惑ったような声を出しながらも、ルイスは即座に演奏を開始した。淀みなく次から次へと流れ行くメロディは、やはりカロリナの真似をした火の旋律よりも生き生きと、出現した風とともに敵陣へと飛んでいった。 敵の周囲にだけ強風が吹き荒れ、大きく隊列が乱れる。進行のスピードが弛むがそれでも前進は止まない。 ギルドでゾーヤは僕のことが噂になっていると言っていた。ヴェルヴ使いで稀人だと。そのことはもちろん敵の耳にも届いていることだろう。だから、前衛でヴェルヴを持っていれば僕が稀人だと認識し、どんな攻撃を繰り出すか思考を巡らせるはずだ。 ルイスが創り上げた風の強風域を先頭集団が抜け出し、ついに敵の姿が鮮明に捉えられた。獅子のように4本足で草原を駆けるそれは。 「魔物だ!」 兵士達が一斉に驚きの声を上げた。同時に炎の壁の周りに集まり長剣や槍を手に迎撃体勢を取る。 「予想的中ね。まさか本当にフィアスが出てくるなんて」 「後ろに下がるなら今のうちだぞ?」 「冗談!」 ルイスの弓が上下に激しく動き、力強いアレグロが奏でられる。ヴァイオリンの前に薄黄色の空気の渦が何重にも集まり、ルイスの髪を逆立てていく。何かわからないが、大技が出るに違いない。 ルイスの魔法が発動する間に、僕は水のリベラメンテを取り外し、別のリベラメンテを装着した。イエローダイヤのような黄色のグラデーションが象徴するそのエレメントは風。 「行くわ!」 との言葉とともに弓を振り上げると、凝縮された空気の塊が勢いよく放出された。大きく渦を描きながら直進するそれはカロリナの焔をもつらぬき、敵陣へと弾丸のように高速で突き進んでいく。 おそらく命中したのだろう。数瞬後には破裂音とともに土煙が巻き起こった。だが、喜んでいる暇はない。攻撃を免れた獅子達の動きがさらに加速していく。
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