スルノア王宮防衛戦

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「ハルト、早く!!」 急かすルイスは、ヴァイオリンを顎と肩の間に挟めて次の攻撃の準備を始めた。僕も頭の中で演奏をスタートさせる。2人の競演が再び弾けた。 ヴェルヴがその輝きを増す間、狼達の水球も加速度的に拡大していく。すでにその体積は人一人分の大きさを遥かに超えて、車一台いやそれ以上に到達しようとしている。あの攻撃をまともに受けたら傷を負うだけでは済まないだろう。 「ハルトまだ!?」 「まだ時間がかかる」 「遅いわよ!」 ルイスは僕の前に飛び出ると流れるように、弦に当てた弓を滑らせた。レガートで紡がれた音の粒はルイスの正面に半円状の風の膜を創り上げていく。 一際大きい遠吠えが耳に届いたときには、列車並の大きさになった水球が赤壁を吹き飛ばし、ルイスの風のシールドに激突していた。ジャリリリリとシールドを削る音が耳奥に響く。 「持たないわ! ハルト急いで!!」 懸命に弓を動かし、音を重ねるルイスの体は徐々に後退していった。焦るな、落ち着け、どんなときでも音を途切れさせるな。 カロリナの赤壁の炎が揺らぐ。微かに聞こえる遠いピアノの旋律に揺らめきが生まれた気がした。 「ルイス! きっかり4分の2拍子で離れろ!」 「わかったわ! 間違えないでよ!!」 「当たり前だ!」 演奏が終了した。ルイスの背中が離れ、激しく波打つ水の塊が視界を覆う。僕は、声をあげるとともにその塊を真っ二つにする勢いで思い切り長剣を振り上げた。水飛沫が身体中に降りかかる。 火炎旋風は目の前に迫った水球を飛散させて狼達の元へと突き進んでいったが、すでにそこにやつらの姿はなかった。 「なっ、どこだ!?」 「上よ」 視界を上に移すと、赤い渦を避けるように狼全員が空高く跳び上がっていた。 「あとは任せて!」 ルイスは素早く弦をかき鳴らすと、複数の小型の風の渦を発現させた。それはカロリナの炎の壁を経由して地面へと降り立つ狼の群れに突撃していく。 適度な風は火の勢いを増す。それは目の前の現象にも当てはまるわけで。焔を身に纏った渦は敵の身体を刻み、燃やした。獅子とは違う耳障りな甲高い声が次々と発せられ、魔法が消えたときには動いているものはいなかった。 「よし、やったわ!!」 「やるねぇ。これは思ったよりも手こずるかな?」 頭の上から軽薄な声が降ってきたと気づいたのは、何かが地面に落とされた後だった。
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