スルノア王宮防衛戦

7/23
前へ
/133ページ
次へ
眩い光に包まれ、身体中を熱風が通り過ぎていく。 「あらら、残念。意外と反応速度が速いんだねぇ」 目を開くと何か黒い物体が倒れてきた。反射的にそれを両手で受け止めるが、あまりの動揺にその手を離してしまった。 ゆっくりと地面に向かって崩れ落ちるそれは、人形(ひとがた)をしていた。いや、人形ではない、生身の人間だ。全身が黒焦げになった元・人間。炭消しのようにボロボロになった鉄の鎧から、兵士だということは推測できる。身を呈して僕を庇ってくれたのだ。 「こんがりと綺麗に焼けたねぇ」 その声の主は遥か上空を飛ぶ大きな鳥からジャンプすると、器用にカロリナの壁をすり抜け、ふわりと僕の目の前に降り立った。 肩までかかった雪のような真白な髪をゆっくりと横に払うと、その少年はにこりと微笑んだ。戦場には不釣り合いの穏やかな笑顔だ。 「初めまして。稀人くん。僕はグラティス、僕の特徴を一つだけ紹介するならーー」 「インシ・リフティ!」 鎌鼬のごとき風の刃が少年の身体を貫いた。中級魔法とはいえ、ほとんど零に近い近距離からの攻撃。無傷ではいられない、はずだった。通常ならば。 「ウ、ソでしょ?」 血が吹き出すでもなく羽織ったマントが破れるわけでもなく、少年は変わらぬ笑顔でそこに立っていた。 「おかしいな。名乗ってる間は攻撃されないと思ったのに。まあ、いいや。僕の特徴の一つは魔法の無効化。君達は絶体絶命のピンチってわけだね。どうぞ、よろしくお願いします」 何を言っているのかすぐにはわからなかった。目の前で兵士が焼かれた事実とその凄惨な現実。それを全く意に介さないどころかまるで物のように扱う少年の言葉。そして魔法が効かないという事象。 だからだ。判断が鈍り、対処を怠ってしまった。 「うわぁぁ!!」 雄叫びとともに僕の横を通り過ぎ、若い兵士が少年に向かって突撃していった。手にした槍でその身体を突くが、容易くかわされ兜をつけたまま首が飛ばされた。真新しい血が吹き出し、顔に生温かいものが飛び散る。 「威勢がいいのはいいけどさぁ。よわっちいのは残念だね~」 「おのれ!」「一斉に攻撃だ!」 前衛にいた兵士が徒党を組んで少年に向かって走り寄る。 「やっ、やめーー」 制止する間もなかった。少年が風のように舞うたびに血飛沫が雨のように降り注ぎ、1分も経たないうちに十数人いた兵士が亡骸となった。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加