揺らめく炎のもとで

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ルイスに背中を押されて校舎の中へ入る。廊下に並んだステンドグラス一枚一枚がロウソクの火に灯され、外とは売って変わって厳かで幻想的な雰囲気を作り出していた。 静かな空間に自分の足音だけが響く。本当にマリーはいるのだろうかと疑いながら、教会へと続く扉を押し開けた。 果たしてマリーはそこにいた。廊下と同じように明かりに照らされたステンドグラスが色とりどりに輝いている。 その教会に配置されたグランドピアノの椅子にマリーは座り、そのまばゆいほどの黄金色の髪の毛と海の音がする藍色の瞳をこちらに向けてにっこりと微笑んだ。 「マリー?」 なぜ疑問系なのかは自分でもわからなかった。間違いなくその人物は目の前にいるはずなのに。 マリーは小さくうなずくと、閉じたピアノのふたの上に置かれたノートにさらさらと文字を書いた。まさか、まだしゃべれないのか!? 慌ててその横に並ぶと、マリーは真新しいノートを僕の視界に映るよう持ち上げる。そこには、こう書かれていた。 〈そう。私は、ハルトがよく知っている、マリー・ジグスムント・ベルナドッテ・ユセフィナ・カールステッド。だけど、改めて自己紹介させて〉 視線を文字からマリーの顔へと移す。形のいい小さな口は息を吸い込み、そして、生き生きと動く。 「初めまして、ハルト。私は、マリー・ジグスムント・ベルナドッテ・ユセフィナ・カールステッド」 その音を聞くと、自動的に海色が浮かんだ。どこまでも広がる青い蒼い海はどこまでも深くて、どこまでも寂しげで、でも、どこまでも優しくてーーその色と同じ両の瞳から涙雨が溢れ出てくる。 「やっと、やっと、話せました。もっと、ずっと話したかった。文字を通してじゃなくて、私の声で私の想いを真っ直ぐにハルトに伝えたかった……やっとだよ……」 思わず抱き締めたくなる衝動を抑えながら、一方で目からこぼれそうになる涙を止めるのにも必死だった。 「あのとき、この教会で倒れてからずっと夢を見ていたの。私が、両親を殺す夢。ピアノが弾けなくなる夢。声が出なくなる夢。何度も何度も同じ場面を繰り返してた。でもね、最後はハルトが出てきてくれた。ハルトが手を差し伸べて私の手を掴んでくれた」 視界が揺れる。ぼやけたマリーは微笑みながら僕の手を取ると、ぎゅっと強く握った。涙が頬を伝うのがわかる。 「こんなふうに。そしたら目が覚めてーー」
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