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「もちろんですとも。生活環境が全く違うこちらに来てまだ慣れていないなかで、全く触れたこともないような楽器の演奏を懇切丁寧に教えていただいているのに上達する気配すら感じないことに申し訳ない気持ちでいっぱいでございます」
「このやろーー」
舌打ちをして何事かを喚きそうになったカロリナの言葉を遮る。
「仮にもカールステッド家長女のカロリーナ様ともあろう方が、皆々様の眼前にて舌打ちをしてこのやろうなどとのたまうのはいかがなものかと思いますが」
僕の言葉にカロリナは、振り上げた拳を素早く下ろした。見渡すまでもなく多くの制服姿の生徒が、均等に煉瓦の壁に配置されたステンドグラスが輝く廊下の両端にずらっと並び、羨望の眼差しで見つめていた。
「カロリーナ様おはようございます」
ついさっきまで溢れんばかりだった音は止み、挨拶の大合唱が起こった。それもそのはず、今日は月に一度、宮廷専属ピアニスト、カロリーナ・カールステッドの実演授業の日なのだ。
カロリナは咳払いを一つすると、細い身体をすっと伸ばし、優雅に微笑みながら挨拶を返した。そのパーフェクトスマイルに男子生徒はおろか女子生徒まで頬を上気させてうっとりとした顔を浮かべていた。確かに、美しい笑顔だとは思う。例えるなら、そう花なら薔薇、宝石ならダイヤモンドといったところだろうか。入ってくるなり、この子達の演奏を馬鹿にしてたなんてとても思えない。
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