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そのパーフェクトなスマイルを撒き散らしながら、カロリナは正面の教会へと向かった。これまた優雅な足取りで。
そして、その後ろを歩くことを許された僕にいつものように嫉妬と羨望の入り交じった微妙な視線がぶつけられる。
その視線に気づかないふりをしながら、カロリナの後をつき、宗教画が描かれた両扉の前に立つとその扉を開けて、カロリナを中へ入れた。カロリナが完全に中に入ると、我先にと猛ダッシュで生徒達が迫ってくる。
100人近くの人数がいれば、どうしても後ろの席に座らざるをえない人が出てくる。しかし、こと演奏者に関しては間近でその繊細なタッチを観たいと思うもの。「天使の手」と称されるカロリナの演奏とならばなおさらだ。
そんなわけで100m走の競争のごとく本気で向かってくる生徒達が次々と教会の中へ雪崩れ込んでいく。
「よう、相変わらずお疲れだな」
そこへ、集団の流れに乗ることなくゆっくりと歩いてくる男が声をかけてきた。
「おはよう。マリー」
あえて無視してその後ろを除き込むようにして、小動物を思わせるくりっとした青い瞳の背の低い少女に挨拶した。
「てめ、無視すんな」
肩をどつかれた。が、これがこいつに対する挨拶みたいなもんだった。
「エド、ひどい寝癖がついてるぞ、直してやろうか」
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