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そして、その「現象」は現れる。カロリナの頭上に突如出現した赤々と蠢く火球が飛散し、薄暗い教会内部をオレンジ色に照らした。スタッカートの力強い旋律に合わせて散らばった火球がまた一点に集まり出す。音が強さと速さを増す度に火球が増大し、一つの形を作り出す。固そうな鱗に巨大な翼。カロリナが得意とするドラゴンの造形だ。カロリナの指が鍵盤を優雅に滑ると、ドラゴンも踊り、カロリナの元へ素早く飛翔する。ドラゴンがカロリナの身体に触れる寸前に最後の一音が弾かれ、炎の塊は掻き消えた。
再び一拍後、誰かの歓声をきっかけに全員が立ち上がり満場の拍手が沸き起こった。
そのなかで僕だけが座ったまま目を瞑っていた。心が躍らなかったわけではない。それよりもただ、どうしてこうなったのかーーその疑問とやるせなさの方が少し上回っただけ。
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