涙雨

9/20
235人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
「どう? 勝利した気分は」 拍手に紛れてそっとカロリナが声を掛けてきた。ニヤニヤ笑ってるのがなんだか腹立たしい。 「カロリーナ様の過度なご指導ご鞭撻のおかげでございます」 「また、そういうことを。嬉しいときは素直に喜んだ方がいいわよ」 「ありがたい御言葉。頭の奥深くに大事にしまっておきます」 「このやろーー」 カロリナの言葉を手で制すると、観客席に向かって歩いていく。これ以上のおしゃべりは生徒たちの前では不要だ。僕は、執事なのだから。 こちらに注がれた視線に気づかない振りをして、オーケ先生の元に戻ると、また拍手で出迎えられてしまった。 「いや、よくやったね! カロリーナ様の特訓は素晴らしいじゃないか」 「はい」 フィールドの修繕に当たる先生たちの様子を見ながら、適当に相づちをうつ。今回の戦闘で石床や壁の破損した部分が魔法でキレイになっていった。 「なに、気にすることはない。よくあることだよ。それよりもなぜヴェルヴを使ったんだい? それは二つ穴だが、実際には一つしか使っていないじゃないか」 「それは、カロリーナ様曰く、切り札は最後まで取っておけ、ということです」 それに、初戦で手の内を全部見せていては、次の戦いで圧倒的に不利だ。 「そうか。しっかりそこまで考えて。まだ余裕がありそうだ」 オーケ先生は太めのお腹を揺らしながら豪快に笑った。 修繕がすみ、次の組み合わせの名前が呼ばれる。 「ルイース・カール・バルバロッサ! マリー・ジクスムント・ベルナドッデ・ユセフィナ・カールステッド様!」 「マリー!?」 まさか、よりによってルイスと当たるとは。前の二つはルイスの取り巻きだったし、何か人間関係を組み合わせの換算に入れてでもいるんだろうか。 ルイスが自信満々に、マリーはおどおどしながら階段を下りていく。ルイスは内心マリーを正式に叩きのめすことができてほくそ笑んでいるんだろうが、そう上手くはいかないだろう。マリーはかなりの魔法の使い手。音楽にも長けているし、リベラメンテを使えば僕なんかよりずっと高度な現象を起こすことが可能なはずだ。 「オーケ先生、マリーはどんな魔法を使うんですか?」 なぜかすぐに返答はなかった。数秒経ってからようやく先生は髭でうずもれた口を開いた。 「マリー様はまだ魔法を使えないんだ」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!