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1・八月の終わりは島へと渡って
「早く船から降りよう」
開いた扉から眩い光とともに湿った灼熱の空気吹き込んできた。
船の中に戻りたい。
その気持ちをこらえて、なにかを突き破るように扉の先へ出た。
目が開けられないほど眩しい世界だった。
思わず顔を伏せてしまう。
顔をわずかに上げて薄目を開けると、夏の陽を受けた開襟シャツの真っ白さが目に染みた。
ひと月ぶりに着た高校の制服とは、どこか居心地の悪さをお互いに感じている気がする。
顔を上げ息を吸い込めば、海のにおいがぬるっと鼻腔に這入り込んで、奥でむわっと膨らんだ。
萎えそうな気持ちを隅に追いやりながらズリズリと歩を進めて、船の揺れるタラップから足を伸ばした。
地上を踏みしめる。
瞬間、体がふらついた、風もないのに。
たぶん、右肩からぶら下がっている荷物や桟橋のコンクリートの仕上がりが柔らかいのではないだろう。初めての船旅の余韻を頭のどこかがもてあましているからだろう。
2歩目3歩目……それ以降もふらふらだった。
タラップから10歩もしない距離に大きな中年の男が待ち構えていた。
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