3. 秘密

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「ベルサド語で〈女神の書〉を作るですって!?」    久々に会うググンから驚きの言葉が飛び出し、ユキは思わず叫んだ。    同盟の条件は女神の引き渡しから譲歩され、まずベルサドの言葉で〈女神の書〉を作る事を求めてきたのである。 「でもどうしてそんな事を要求してくるの? 女神の書は結局世界中に出回っているのよね? 関連本だって山ほどあるじゃない」  ユキは腑に落ちないという顔でググンに尋ねた。 「その『時間』が問題なのですよ。もちろんすぐに翻訳されることもありますが……。これは〈女神の書〉を得た国の裁量に依る所が大きいのです。つまり、我が国が〈女神の書〉を禁書として扱えば、女神の知識は世界中に行き渡りません。何十年、下手すれば何百年とかかる事だって有り得るのです」 「でも、サマルディアはそんな馬鹿な事はしないでしょ?」  ユキが口を挟んだ。 「もちろん、そのような愚かなことは致しません。女神の知識は世界の宝なのですから。これはあくまでも仮の話です。それでも絶対無いとも言えない事なのですよ」  ググンが続ける。 「それに、世界中に女神の書を広めるというのは、案外大変な事なのです。翻訳にも時間がかかりますし、印刷技術もユキ様のお国と比べると雲泥の差があります。他にも……いえ、これが一番の理由でしょうね。ユキ様ご自身が書かれた〈女神の書〉に価値があるのです。何と言っても直筆の聖書ですからね。まあ、その為時間もかかりますよね」  ググンがチラリとユキを見る。  
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