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蒼空
「サイは目がいいんだよ。鷹の仲間だからな。空の高い所から草むらの小さな野鼠だって見つけ出すんだ……」
ユキの隣に転げたアルスがユキに話し掛けた。
窓辺の止まり木に彫刻の様に止まっていた〈サイ〉が、自分の名を呼ばれたと思ったのか
首を傾け「ピュリピュリ」と鳴いた。
「だから空の見える所にいろよ。きっと見つけられるから」
ユキは寝ころんだまま窓辺のサイからアルスの方へと向き直った。
「――――つまり私が迷子になるってこと? いい大人なんですけど」
ユキが頬杖を付く。
「迷子になるだろ。いい大人なのに落ち着きが足りないから」
「オーケー、わかったわよ」
コロンと転がってユキはアルスにぴったりとくっついた。
「ほら」
ユキがじっとアルスの瞳を見つめた。
アルスの明るく蒼い瞳は、サマルディアに広がる空の様に綺麗だ。
「空の見えるとこ…………ねぇ」
ユキが含み笑いをする。
「お前な……」と言ってアルスはユキに覆いかぶさった。
「真剣に聞いてないだろ!?」
「真剣に聞いてるったら!」
――――――ユキが天を仰ぎみる。
背の高い木々が鬱そうと空を覆いつくし、その陰にユキは埋もれているようだ。
どこまで行けば空を見る事ができるのだろう?
このまま大地に沈み込み、ユキは永久に蒼空を失ってしまうような気がした……。
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