第2章

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  だが、 俺たちの間には いまだに離れていた 9年のことが横たわっていて、 たまにこうして 会話に不具合を起こす。 志緒とて、 俺を責めたいわけじゃ ないことはわかっている。 彼女を置いていった 俺が悪いのは、 確かだった。 だが互いの気持ちや 事情を共有した今、 彼女の中にも 俺を追わなかったという 罪悪感があるのだ。 俺は、 それを上手に撫でて あやしてやることができない。 俺の中にずっとあった 痛みや苦しみを、 志緒は撫でることが できているにも関わらず。 それでもなんとか 彼女の迂闊さを なかったことにしたくて、 話を戻す。 「家族と離れてからも、 そんなことを考えるような 要素じゃないんだ。 たぶん、 俺にとっては」 俺は、 父さんとは他人だから。 ──とは、 言えなかった。 .
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