598人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
10年前のことを振り返れば、
どうしてあんなに
思い詰めてしまったのだろうかと
思う夜はある。
同じようにあの街を
逃げ出すにしても、
何度も後悔したように
せめて志緒だけでも……と。
だがその後悔と同じくらい、
やはり思うのだ。
俺には、
ああやって逃げるしか
自分を保つ術がなかったのだ、と。
「……拓海、さん……」
呼吸を乱した志緒が、
すっかり理性を手放した
けものの目をして、
俺を見上げる。
会話でつながれない俺たちは、
愚かにも体をつなげることで
その隙間を埋めようと
足掻くしかないからだ。
好きだとか嫌いだとか、
愛してるとか愛してないとか、
いくら言葉で想いを
模倣したところで、
本懐には到底届かない。
.
最初のコメントを投稿しよう!