第2章

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  10年前のことを振り返れば、 どうしてあんなに 思い詰めてしまったのだろうかと 思う夜はある。 同じようにあの街を 逃げ出すにしても、 何度も後悔したように せめて志緒だけでも……と。 だがその後悔と同じくらい、 やはり思うのだ。 俺には、 ああやって逃げるしか 自分を保つ術がなかったのだ、と。 「……拓海、さん……」 呼吸を乱した志緒が、 すっかり理性を手放した けものの目をして、 俺を見上げる。 会話でつながれない俺たちは、 愚かにも体をつなげることで その隙間を埋めようと 足掻くしかないからだ。 好きだとか嫌いだとか、 愛してるとか愛してないとか、 いくら言葉で想いを 模倣したところで、 本懐には到底届かない。 .
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