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よし、行こう。そう決意を固めて歩を進めた。コンクリートを土台にした鉄柵の間にあるアーチ状の扉に鍵はかけられていなかった。甲高い音を出す門を抜けると、それなりの広さのある前庭に出る。石畳の道が洋館の扉まで伸びていて、ぼくはそこを慎重に歩く。
洋館の扉にはインターホンらしきものはついていなくて、丸いわっかのノッカーだけがついている。ぼくはそれを鳴らした。コンコンと音がする。誰も出てこない。ふたたび鳴らす。それを繰り返す。ぼくにはその音が中にいる人を呼び出すものではなく、周囲の森に響かせるものに感じられた。眠っているなにかしらの獣を呼び出してしまうのではないかと怖くなって、誰か出てきてはやく、とノックを連続させる。現在の時刻は六時ちょっと前で、いい具合に日が傾いている。夜に移り変わる時間帯というのが一番怖いという話を聞いたことがあるし、妙なタイミングで風が吹き始めて森がざわついている。背筋が寒くなって、ノックする手に力がこもる。
何回ノッカーを鳴らしても誰も出てこない。人がいる気配すらしない。ぼくは我慢できずにノブを回した。意外なことにそれはすんなりと回って、扉が開く。ぼくは躊躇いながらも前に進んだ。中は外観同様洋風で、広々としたホールや緋色の絨毯が敷かれた幅広の階段、シャンデリアなどは映画のセットみたいだった。
「あの、誰かいませんか」
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