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執事との出会い
ぼくはその建物を見てあっけにとられていた。三階建ての古い洋館が目の前にそびえていて、その蔦を這わせた外観はまるで手の込んだお化け屋敷だった。もちろんここはテーマーパークの敷地内ではないし、そもそも人が住めるような場所でもない。
ぼくがいま立っているのは深い森の中だった。雨が激しく降っていて、無数の葉が水滴を散らしている。普段立ち寄る機会のない町外れにある森に入り、唯一の道、舗装もされていない土の地面が丸出しの獣道みたいな細い道を通ると、ふいに道が途切れてこの洋館が姿を見せた。緑の木々に囲まれた広場の中、高い鉄柵の向こうにたたずむ不気味な洋館。半分くらいは疑いながらここまでやってきたぼくは驚くと同時にほっとしてもいた。
――ほんとにあったんだ。
しばらく立ち尽くして気分が落ち着くと、安堵のほうが胸を埋め尽くした。疑う気持も強かったから、とにかく嘘じゃなくてよかったというのが率直な感想だった。薄暗い森の中にいるという恐怖もまだ少しあったけれど、期待のほうが勝っていた。なによりいまさら逃げ出すわけにもいかないという事情がぼくの背中を押した。帰るべき場所はもうない。
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