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周囲を見回しながら声を上げる。恐々としたぼくの声がホールに反響するだけで、返事は返ってこない。誰もいないのかな、と不安になる。確かに連絡はいれていなかったけれど、情報誌にはそれでいいと書いてあった。面接は随時受付とそう記してあったし、夜中でも構わないとも書いてあったのだ。
ぼくはさらに先へと進む。先といってもホールは広いからそこの真ん中くらいだ。そこに立って改めて周りを見回して、これからどうしようかと考える。部屋はたくありそうだから、声が届いていないだけなのかもしれない。奥のほうにいるならなおさらだ。とりあえず手近な扉でも開けてみようかな、そう思ったときだった。
「貴様、何者だ」
すっと耳に声が入ってきた。ふいに間近で聞こえたその声に、ぼくは最初驚かなかった。誰かいるんだ、よかった、とまず胸を撫で下ろした。それからどこだろうと首をめぐらせ、人影が見当たらないことを不審に思った直後、後ろに誰かがいることに気づいた。その気配があまりに突然に現われたので心臓がドクンと跳ね、うわっと声には出さずにそんなふうに口を開けて振り返った。
「ここで何をしている」
そこにいたのは端整な顔立ちの若い男性だった。細身の身体を燕尾服で包んでいる。正装が似合う長身で、年齢は二十歳ちょっと。若干長めの前髪からのぞく鋭い切れ長の目がぼくを射抜いていた。
ぼくはとっさにここへ来た理由を答えられなかった。言葉を出せないまま口をパクパク開けていると、
「貴様、学生か」
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