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夕。移動。
とにかく印象は黒だった。
そこに集まった少女たちはみな一様に黒い色をまとっていた。
都内のライブハウス。
さっきまでのかなえの人生にはまるで無縁の場所だった。
「あの……」
電車の中では話が出来なかった。
「これ聞いて」
渡された片方のイヤホン。
携帯音楽プレーヤーからのびたイヤホンの左をかなえに左飛出しながら、ゆりは自分の耳に右側を押し込んだ。
そして。
「心臓、左でしょ。親しくなりたい人には左に立ってもらうんだって」
くす。とゆりが笑う。
まただ。
また、あの鮮やかに胸に刻まれる表情。
取りあえず予習ね。
運良く空いていた席に2人で座る。
流れてくる音楽は、今までかなえが触れたことのないもの。
ふんふん。とゆりは機嫌良く曲に合わせて小さく鼻歌を歌っている。
見ると、リズムを取っているのか指先が小さく動いていた。
ーー今回はロックだから。
いつかのアイドル雑誌でのインタビューで裕也が答えていた。
CDを買って何度も聞いて。カッコいい。これがロックなのか。早く生で聞きたい。そう思っていた。
そう思っていた曲よりも、何倍も激しい、曲。
残念ながらコンサートチケットは当たらなかったけれど。
「ここで頭振ってね。それでここで折り畳み。初めてだから出来ないだろうけど、まぁ見てれば大丈夫。センターにいると危ないから下手側でいいよね?人がぶつかってきて恐かったら壁に寄りかかってれば大丈夫だよ。うちはモッシュとかないから……、対バン相手はモッシュあるんだけど、その時は後ろに下がってるから大丈夫だし。メンコのときはね、大きな声出すの恥ずかしかったら取りあえず咲いとけば良いからね。それで……」
こんなに口数が多いゆりを見るのは初めてだった。
そして、楽しそうなのも。
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