夜。花火。

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夜。花火。

そろそろ中に入ろう。 そう言って促され会場の中に入った。 チケットをもぎるスタッフに、お目当てはどこですか?と聞かれ、それはどこの国の言葉だろう?とふと思ってしまったらゆりがすかさず何かを答えていた。 そして次に待っていたスタッフに2人分ですー。と言いながら千円札を差し出し、小さな紙片を2枚受け取った。 「……鞄の中見せないでも良いの?」 恐る恐る聞くとゆりは一瞬ぽかんとした顔をし、そして声を立てて短く笑った。 「あぁ、東京ドーム!」 こんなに大きな声も出せたのだ。とかなえは少し驚いた。 「椎橋裕也でしょ。コンサートチケット取れないみたいだけど、行ったことあるの?全然違う。ってさっき言ったでしょ?」 ゆりはそう言ってホールと呼んでいいのかもわからない小さなホールの奥へとかなえの手を引いて歩いた。 「さ、入れて」 トイレへと通じる細い通路の壁に沿って赤く塗られたコインロッカーが並んでいた。その扉を開いてゆりは素早く自分の鞄を押し込むと、かなえにも荷物を入れろと促した。 何でも、足元に荷物を置くのはマナー違反だから。だそうだ。 荷物を足元に置く?椅子の上ではなく? 疑問に思いながらかなえはスクールバックをコインロッカーに押し込んだ。 「大丈夫?出しとくものない?」 聞いてくるゆりはいつの間にか小さな鞄を肩からかけていた。 ドリンクチケットーー千円と引き換えにもらった紙片はドリンクチケットと言うのだそうだーーと携帯とロッカーのカギを入れておかないといけないでしょ。そう言ったゆりは、次いで、あー、入れるものない?携帯必要?必要ない?じゃあドリンクチケットだけ私が持っといてあげるね。そう言って素早くロッカーにカギをかける。 開け放してある扉からかなえが聞いたことのない音楽が流れてくる。 その音に導かれるように会場内に足を踏み入れ、かなえは、だから。と思った。 少女ーー少女とは呼べない年齢の女性もたくさんいたがーーたちが三三五五固まって何事かを話し込んでいる。 程度の差こそアレ、どの顔にも笑みが浮かんでいた。 ーー覚えがある。 場所も、雰囲気も違うが、それでも。 ゆりが言った東京ドーム。 奇跡のように当たったコンサートチケットを握りしめて向かった東京ドームの周辺に集う少女たちは皆こんな空気をまとっていた。
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