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「暇だなあ。」
思わず心の声が口をついて出るも、店の中は閑古鳥が鳴いている。誰も聞いてなんかない。
今日は両親は仕事、じいちゃんは商店街の皆とバス旅行、そして姉は午後になりふらりと何処かへ出掛けてしまった。
僕は店の椅子に座りスマホを弄りながら欠伸を一つ。
うとうとし始めて瞼が重くなり、視界がぼやけてきた瞬間、店の引き戸が大きな音を立てて開いた。
「一華ぁ、いるぅ?」
姉の友人である比菜さんだった。
「比菜さんいらっしゃい。姉さんならちょっと出てて、いつ戻るかわからないけど。」
「ありゃ、そうなんだ。折角美味しいタルト買ってきたのになあ。」
口を軽く尖らせた比菜さんが残念そうに洋菓子店の箱をちらつかせ、僕にはその意図が分かり軽く笑って見せた。
「また姉さんに何かお願い事ですか?」
「うーん、まあね。今度さ、うちの企画で百物語やるのよ。」
・・・うーん、季節外れな感じだが、ネタが尽きたのだろうか。
比菜さんはドヤ顔をしてるが、こちらは苦笑い。
僕の反応がイマイチだったせいか、比菜さんは自分の鞄から雑誌を取り出して、付箋の貼ってあるページを開いて見せてくれた。
「ここに書いてある、有名な霊能力者 黄河皐月さん参加の元、芸能人と一般人含めて十五人程度。当日はテレビも入るのよ。」
有名な霊能力者、ね。以前のインチキ霊能者の二の舞で全国区で恥をかく事になるのではないかと比菜さんを見るも、それに気づいたのか彼女はニヤリと笑って返してきた。
「大丈夫よ、今度の人は本物。一華も会ったことあるもの。」
「えっ?そうなんですか?」
雑誌に載っている写真は三十代位の綺麗な女性だ。姉さんが会った事あると言っても、僕は聞いたことがない。
「そう、それもね・・・フッ、アハハ・・。」
比菜さんは思い出し笑いをしながら、腹を抱えているが、意味のわからない僕はヤキモキするばかり。
「比菜さん、ちょっと、教えてくださいよ。」
「あーごめん。これを話すにはまず合コンの話からしなきゃいけないんだけどさ。」
合コン?
「いやあ、楽しそうですね。自分もその話、聞きたいなあ。」
「「うわっ!?」」
比菜さんの背後に現れた藤咲さんに二人同時に声を出した。
「ちょっ、全然気づかなかったんだけど。」
「いや、僕も。」
「刑事やってると、自然と身に付くんだよねー、気配消すの。」
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