第一章 パンドラの匣

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震えだすと同時に、昨日聞いたあのカリカリと引っ掻く音が耳に入り込む。 なんとも不愉快で、耳障りな音が頭の中に響き出す。本当は耳を塞ぎたいところだけど、姉の合図を根気よく待つ。 カリカリという音が増した時、姉が「今だ!」と叫んだ。 壺の蓋を思い切り開けると、姉は箱の蓋を開ける。 中から、呻きながら黒いうようよした塊の様なモノが、吸い込まれる様に壺の中へと入っていった。 「蓋して!」 「はい!」 カポッと音を出して蓋をすれば、姉がお札を蓋と本体を、繋ぐ様にベタベタ貼っていく。 それまで煩かった音が止み、僕はペタりとその場に座り込んだ。 「これで悪さ出来ないわ。」 「移動させたの?」 「この箱じゃいつ出てきてもおかしくないからね。その点、うちの壺のが頑丈なのよ。」 何の解決にもならないんじゃ。 僕が不満げな顔をしていた事に気づいたのか、姉は目を細目てこちらを向いた。 「処分すると言ったろ。これを海に沈める。」 「ええっ?」 圭子さんに挨拶を済ませると、姉はさっさと外に出て、車で近くの海へと急いだ。 「一哉、浮いてこない様に鎖ぐるぐる巻き付けて。死体沈める時みたいに。」 「何言ってんの。」 だから、こんな鎖用意してたのか。 「今のそいつらはゾンビみたいなもんで、また蓋が外れれば近くの人間を襲い兼ねないからな。」 「姉さん、さっき閉じ込める程度の力しかなかった奴の事馬鹿にしてなかった?矛盾してるじゃん、姉さんも祓えなかった、って事でしょ。」 「お前は学習してないな。トンネルで怖い思いしたろ。単体なら私だって簡単に祓える、けどな、いくつもの霊体が混ざり、一つの大きな塊になって溶け合って原型すらなくなってるんだ。そんなモン日本一の能力者だって、閉じ込める事しかできないさ。」 そんな、恐ろしいモノだったのか、コレ。 僕は抱いている壺を一時でも早く手放したかった。 「よし、着いた。」 そこはあまり知られていない崖の上だった。 断崖絶壁、覗き込めば吸い込まれそうで、思わず尻込みするような場所で、姉は適当に投げろと言うのだが・・・。 「壺、割れない?」 振り向いて姉に訊ねると、また鼻でフフンと嗤う。 「大丈夫だ、それはただの壺じゃないから。」 姉のドヤ顔に少しイラッとしつつ、僕は荒れ狂う波の中へ壺を落とした。
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