第1話 生死の狭間

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「もう死ぬかもしれないと思った瞬間、あー、俺って生きているって実感できるわけよ」  あいつは遠くを見つめながらそう言ってのけた。いや、案外とそれほど遠くないのかもしれないが、身近なものを見て、そんなことを言っているのだとしたら、あいつと自分との距離があまりにも離れてしまっている。そう思いたくなかった。或いはそう、認めたくなかった。 「死に損ないが、えらそうなことをぬかすなよ」  僕は手当てに専念しようとしたが、あいつの言いように少し腹が立ち、そして不安な気持ちにさせられ、嫌味の一つでも言わなければ気が済まなくなった。 「ずいぶんと罰当たりな言い方をするじゃないか。お前さん、最近口が悪くなったよな」  よくもこんな状態で悠長な口のきき方ができるものだと呆れる。思えばアルフレッド・ローゼンベルガーと出会ってからこの方、呆れるようなことばかりだったが、期待を裏切られたことは一度としてなかった。あいつは必ず生きて帰ってきた。 「もしそうだとしたら、きっとそれは身近にいる誰かさんの影響さ」  いつものあいつなら、ここで大きな声を出して笑い飛ばすか、僕の首に丸太のような腕を巻き付けて減らず口の一つでも叩くのだろうが、さすがにその元気はなかった。顔は笑っているように見えたが、意識を保っていること自体が相当な負担のはずだった。『これまでで一番酷い』という状態を毎回、毎回更新している。まるで何かの記録に挑んでいるかのように。そう考えると、ますます腹が立ってきた。
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