第1話 生死の狭間

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 外傷は火傷、凍傷、打撲、毒物による皮膚組織の壊死。噛みつかれたり引っ掻かれたりした場所は雑菌によって化膿している。それらの菌は、あらかじめ予防処置がしてあるので、体内に入り込んでも免疫によって致命的なダメージにはならないが、体温は上昇し、普通の人間なら歩くことがままならないだろう。  あいつは「あばらを2~3本もっていかれた」と言っていたが、それは逆で無傷なあばら骨の本数だった。ヒビが入っている程度の物はおそらく24時間で自然治癒するだろうから、それでも治らない骨は右の4番と5番、左の6番と7番だ。しかしそれよりも深刻なのは左腕のダメージだ。前腕の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)は粉砕骨折しており、筋肉組織はずたずたにされている。強力な顎をもつ敵に噛み砕かれたのもそうだが、使えなくなった左腕を盾替わりに使うような無茶をしたに違いなかった。  軽量級のパワードスーツは完全にダメージを吸収することはできない。あいつの内臓が無事なのは強靭な筋肉の鎧、そして破損と修復を繰り返して強化された骨の強度による。軽量級のパワードスーツの利点は、徹底的に追及された軽量化とより素肌に近い感覚を装着者に伝える機能の充実である。それによって体術を極めた者は道着を着た感覚で戦闘を行うことができる。敵対する相手の殺気のようなものを感じ取ってコンマ数秒の差を積み重ねることで有利に戦うことができる。  一方、重量級のパワードスーツは、高い防御力と直線的な推進力、そしてアタッチメントで様々な武器や防具を装着できるが同時に、それらをフルに使うことで多くのエネルギーを消費するという難点を持つ。行動可能時間内に敵を殲滅できなかった場合、格好の的になってしまう。戦線から離脱する際は、パージしてめくらましや自爆によって脱出を補助する機能は標準でついているが、重量級のパワードスーツは急な加速や停止、重火器使用時の衝撃などによって着用者の体力の消耗も激しい。
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