第1話 生死の狭間

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 アルフレッド・ローゼンベルガーは状況にようってそれらのスーツを使い分けることができるオールマイティな兵士だが、軽量級のスーツを好んで使う。 「スーツが頑丈だと、ついついその防御力に頼って隙ができてしまう。常に命の危険を肌に感じられるこいつのほうが、俺には性にあっているのさ」  僕から言わせれば、あいつは命のやりとりを愉しんでいるのだ。不死身を証明するために、限界ぎりぎりまで死に近づく。死神の鎌が後ろに束ねた髪の毛を数本切り落とす間合いまでは平然と入り込み、死神がまとったマントの生地のしなやかさを頬に感じ、しゃれこうべの目の穴の中に深遠を覗き込み、不適な笑みを浮かべる。 「お前さん、知っているかい? 死神には目玉がないんだぜ。かわりに深い、深い闇があるんだ。俺は一度その闇の中にサバイバルナイフを突っ込んでやったことがあるんだぜ。そしたらどうなったと思う。あの野郎。ナイフごと俺を闇の中に飲み込もうとしやがった。もし一瞬ナイフを放すのが遅かったら、俺はこの世にいなかっただろうな」  あいつとコンビを組んだのは、その死神によってあいつの所属していた部隊が壊滅させられ、あいつただ一人、奇跡的な生還を果たしたあとだった。唯一の生き残りであったアルフレッド・ローゼンベルガーは、それをきっかけに『不死身の戦士』と呼ばれるようになったのだが、同時に『死神憑きのローゼンベルガー』と呼ばれるようにもなった。  あいつが受ける任務はどれも遂行困難なミッションであったから、必然犠牲者も多くなる。アルフレッド・ローザが通り過ぎたあとに死体の山があるのではなく、あいつの向かう先が常に決死圏なのである。
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