第2話 宇宙猫

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 人類にとっての共通の敵――それは有史以来、常に人の傍らにいて人の行く末を眺めていた存在。彼らは友人であり、時に恋人よりも愛おしい存在であり、時に敬愛に値し、時に人々を和ませる。大型のものは、百獣の王と呼ばれ、畏敬の念を持ってあがめられ、また「強さ」「勇猛さ」の象徴とされるものもいた。  戦闘能力におけるしなやかさ、俊敏さ、狡猾さ。人類が文明を築く過程において、時に人を食う獣として恐れられ乱獲がされたこともある。  ネコ目(食肉目)- ネコ亜目- ネコ科- ネコ亜科- ネコ属- ヤマネコ種- イエネコ亜種が、人類の敵になったのは30年ほど前のことである。地球を離れ宇宙で人と暮らすようになったとき、人は当然のように、または実験の意味でネコを同行させた。人類が宇宙という新しい環境に適応していったように、ネコもまた宇宙の中で適応していった。いや、或いは現在のネコの姿が本来の姿であって、地球という、ネコにとって暮らしにくい土地で生き残るために、ネコは人類と共存する道を選んだのかもしれない。  そう考えれば、ライオンやトラ、ヒョウやジャガーは、人にへつらうことなく己の我を通した存在なのかもしれない。元来ネコは凶暴性を有しており、人に対する警戒心が強い生き物である。  犬は人につき、猫は家につく。  ネコは地球という家につき、その環境が宇宙に変わったのであれば、人類より宇宙空間に適応したネコは、もはや人に媚を売る必要はなくなった。機を見るに敏――かくしてネコは人類に牙を向け、虎視眈々と爪を磨ぎ、狡猾に人類にとって代わって、覇者になろうとしたのである。  奴らは人類が培ったテクノロジーを巧みに利用し、能力の強化を図った。或いは図らずしもその機会を得た。ほんのいたずら心で、飼い主が最愛のペットにナノテクノロジーを使った心肺機能や治癒能力の強化を行い、それぞれの個体が交配を繰り返すことで、人類の脅威足りうる怪物が生まれるまで、おそらく100年ほどの歳月がかかったことが、遺伝子レベルの解析で明らかになっている。  宇宙にでても、人の営みは変わらない。
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