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本編
「先輩」
「はいはい」
「話があります」
「その問題、解き終わったらね」
図書室にはもう、誰もいない。四時半に閉まる図書室だ。五時を過ぎた今は、図書委員の仕事という名目で二人のためだけの空間になっていた。
「もう解き終わっています」
「君は、たまにものすごい集中力を発揮するよね」
敬語を使ってはいるものの、その言葉に込められた敬意は薄い。先輩だから仕方なく敬語にしているという形式的なものだった。最も、そこに悪意はなく、おそらく彼らの距離に対して先輩と後輩という関係が遠すぎることが問題なのだろう。
「それで、話なんですが」
「ここ、間違ってるからやり直しね」
物腰柔らかに見える先輩だが、こういった部分には厳しいらしい。
「むむ……」
「急ぐとそういうミスをするんだから、気をつけてやらなきゃね」
「できました」
「話、聞いてた?」
後輩の性格のにじみ出る一幕だった。結果としては、見事に正解に直されており、先輩の助言は虚しくも空を切る形になったのだが。
「それでですね」
「はい」
「今日は花火大会があるんですよ」
「そういえばもう、そんな時期だったねえ」
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