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 上着の内ポケットに入れた果物ナイフの柄を握りしめる手が汗ばんでいた。  目の前にはコンビニ。時刻は午前一時。人通りもすっかりなくなり、行き交うクルマもまばらだ。おれは一歩一歩、過剰なほど明るい照明で満たされた店へと足を進める。  借金の返済日が迫っていた。しかし返済できるアテがなかった。借金取りに追われ、もはや残された道は強盗しかなかった。  マスクをし、上着の内側に手を入れたまま、自動ドアの前に立った。  と、開いたドアの向こうには、フルフェイス・ヘルメットをかぶった男がカウンターごしに包丁をつきつけていた。店員がレジから現金を取り出し、カウンターの上の鞄にせっせと入れている。  コンビニ強盗だ!  運の悪いことに、先客がいたわけである。  まずい。殺気だったコンビニ強盗犯に襲われてはたまらんと、おれは一目散にその場から逃げ出した。
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