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その時、ガラスの扉が開いた。レオにとって扉が開くのは、二度目の経験だった。今度は制服を着た学生だった。
「だからさ」
しかし、ミカは怯むことなく続ける。自分の番ではない、と確信しているような堂々とした表情だった。いや、違う。ミカが一瞬、悲しそうに眉を八の字に曲げたのをレオは見逃さなかった。今しかレオに伝えることが出来ない、と分かっている顔だった。
制服をまとった手が商品の方向に伸びる。その手は真っ直ぐミカに向かっている。
「だからねっ」
ミカが声を上げるのは、珍しいことだった。レオは再び、ミカの横顔を見つめて、つい目を奪われる。ミカの目からは、涙が一筋流れていた。
「生まれ変わったら、また会えたらいいね」
隣でミカが持ち上がる。レオはその現場を見ている事しか出来ない。その場から動けない自分がとてつもなく情けなかった。
ガラスの扉が閉まる寸前に、ミカがレオを振り返った。
涙で濡れた頬を持ち上げて、必死な笑顔を向けていた。
ミカの入ったカゴがレジの方に向かっていく。レオは限界まで目を凝らしたが、やがてミカの姿は見えなくなった。
ミカは、レオの心にぽっかり穴を空けて、買われていった。
レオは一人、動かない天然水とオレンジジュースのペットボトルに挟まれて目を閉じた。
とうとうこの場所で、レオは本当に一人きりになった。
真っ暗闇の中で、マサトとミカが両隣で笑っている場面が浮かんだ。
レオは静かに目を開ける。
あとは、自分を買ってくれる人間を待つだけだ。レオは暗くなった外をガラス越しに眺めて外の世界を羨んだ。
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