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「ミカちゃんは見た感じ、オレンジジュースだよね」
レオがミカの全身を眺めると、彼女は頬を赤らめて笑った。
「そんなに見ないでよ」
ミカの無邪気な笑顔に、レオは一瞬目を奪われた。
そんな自分に気づいて、慌てて前方に顔を向ける。ガラスの向こうでは、変わらずに人間が歩いている。手にカゴをぶら下げて、棚からお菓子やパンの袋をとってカゴに入れる。
現れる人間全員がそれと似ている行動をしていた。
「レオくんっていうのかい?」
今度は男の声だった。レオは、声のした左隣に顔を向けた。天然水の入ったペットボトルがレオを見ていた。「俺はマサトっていう。レオくんよろしくな」
マサトと名乗ったペットボトルは、レオより低い声で話す。
話し方や態度を見て、自分より年上そうだな、とレオは考えた。「マサトくんは」
それまで黙っていたミカが歯を見せた笑顔でマサトを見た。
「天然水だね」
マサトは自分の体を見てから頷いた。
「そうっぽいな」
3人が顔を見合わせて笑った時、前のガラスが開いて暖かい空気がレオの体に触れた。
目の前には、男の人間の顔があった。泣きも笑いもせずに、無表情そのもので手を伸ばす。レオの方に手が伸びる、と思ったのも束の間、男の手はレオの一つ下の段にある緑茶のペットボトルを掴んだ。
緑茶をカゴに放り投げると、男は何事も無かったかのようにガラスの扉を閉じた。
レオは安堵のため息をつく。
ミカとマサトも、同じく胸をなで下ろしていた。「怖かった、あたしが連れてかれるのかと思った」
高い声を震わせて、ミカは言った。
マサトも大きく頷いていた。
レオは黙って考えていた。
人間が持っていった商品は、その後どうなっているのだろう。捨てられるのか、殺されるのか、保存してくれるのか、愛してくれるのか。この冷たい場に居るだけのレオには、全く見当がつかなかった。人間の手が伸びてきたことで、ミカがなぜ震えているのかがわからない。
「私達、人間に買われたらこの世からいなくなっちゃうんだよ」
レオの考えていることが分かったのか、ミカが俯いて言った。
レオは、初めて聞く自分たちの将来に驚きが隠せなかった。
「いなくなっちゃうってどういうことだよ」
出した自分の声が、想像以上に震えていた。動揺していると自覚すると、自然と鼓動が速くなる。
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