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「まぁ、一回落ち着けって」
左側からマサトが話に加わる。レオはマサトを見た。マサトが、ミカの言ったことを否定することを期待した。しかし、マサトは真っ直ぐなレオの目から視線を外して、下を見た。
「けどミカちゃんが言ってることは、あながち間違えでもないと思う」
「は?何言ってんだよ」
感情的になるレオを横目で見て、マサトは静かに口を開いた。
「俺、初めて見た景色がさ、全面灰色みたいな部屋だったの。全身白い格好した人間が何人もいて、俺のことを見てた。今思えば、そこが俺の生まれた工場なんだよな」
マサトの言う全面灰色の部屋には、レオも経験があった。マサトと同じく、最初に見た光景が灰色の天井だったからだ。隣のミカも経験があるらしく、うんうん、と頷いていた。
「そこの工場でさ、他にも俺と同じように会話できる奴がいたんだよ。ひとりだけ。ソイツは、まだ俺がラベルを貼っていない状態の時に、一足先にもう商品として出来上がっていた。大きい段ボール箱に入る前に、俺に話しかけてきたんだ」
___おい、聞こえるか
___え?あぁ、聞こえるけど
___時間が無いからよく聞けよ。俺達は、ここから出たら全国の店に売られるみたいなんだ。俺達は買われたら最後、生きて帰ってこれないらしい。ここにいる白いヤツらが言っていたんだ。お前も早く逃げるか、その台から降りて不良品になるかしろ
「ソイツはすぐに、そのまま段ボール箱に入れられた。その数日後に、俺も同じようにして段ボール箱に入ってここへやって来た」
マサトの話を聞いて、レオは驚愕していた。返す言葉も、次に発するべき言葉も見つからない。
黙り込むレオを差し置いて、ミカも暗い表情で言う。
「あたしも、全く同じことがあったんだよね。だから、買われたらいけないことも分かってた」
自己紹介をしていた時とは比べ物にならないほど、その場の空気が重たくなった。
レオはその場に突っ立ったまま、ガラス越しの外を見つめることしか出来なかった。
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