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気づけば外は薄暗くなっていた。レオは呆然としたまま、随分長い時間を過ごしていたことに気づいた。
左隣を見て、レオは固まった。
居るはずのマサトが見えない。マサト、とレオは声をかける。マサトならば、すぐに反応するはずだった。しかし、天然水の入ったペットボトルは静かにそこにあるだけだ。今までの記憶は、自分の想像の中で作られたものだったのだろうか。現実ではマサトは他と変わらないペットボトルだったのだろうか。考えていると、マサトの頭の中に悪い予感がよぎる。まさか、ミカまでもが想像上のものだったのか、とレオは焦って右隣に顔を向ける。そこには変わらずにミカがいて、レオは方の力を抜いた。
やはりマサトだけが、レオの想像上で作られた人格だったのだろうか。
「マサトくん、さっき買われちゃったのよ」
レオは、えっ?とミカの方を見た。
ミカは眉間に皺を寄せて、レオを睨みつけていた。鋭い視線が刺さり、レオは背筋が冷たくなるのを感じる。
「ずっとボケーッとしてて、君は気づかなかったけどね」
『レオくん』から『君』へと呼び名が変わった。ミカは、潤んでいるが、その奥に怒りを交えた瞳を向ける。
泣いたのだろうか、ミカの目の周りは赤くなっていた。
「ごめん」
レオは一言そう言って俯いた。
長い沈黙が、空気を張り詰めたものにする。空気に耐えきれず、レオは左隣へ助けを求めるが、そこには静かにペットボトルがあるだけだった。改めてマサトの存在が必要不可欠だったと、レオは感じた。
「あたしさ」
沈黙を破ったのはミカだった。レオは右側を見るが、ミカは前を見たまま話を続ける。
「普通に生きれたら、それでいいんだよね。別に大金持ちになりたいとか、大企業の社長になりたいとか。あたし欲張りしないからさ、普通にぼちぼち幸せだったらよかった」
ミカの声が心なしか暗く聞こえる。レオは黙っていた。
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