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「世話係……?」
俺の主人――スヴェン・ヴィラ・エリノワールの言葉を反芻することしかできなかった。十八年の付き合いではこの男のすべてを掴むことはできない。わかるのは、いつも俺の想像のつかない、突拍子の無いことを提案するということ。どれくらいわけがわからないかというと、庭師の俺を世話係に任命する程度には。
「お言葉ですが、スヴェン様。俺の仕事はご存知ですよね」
「父親の代から我が家に仕えてくれている庭師だ。知らぬわけがなかろう」
「ではなぜ庭師が世話係になるのでしょうか」
まあ腰かけたまえ――と書斎に通されたときはこんなことになるなんて思いもしなかった。おずおずと座るが、やはり主人と相対するのは慣れない。それはスヴェン様の漂わせるエリノワール家当主としての威厳のせいか、それとも。
アールグレイが運ばれた。スヴェン様の大好きな茶葉。
スヴェン様は他の貴族と違い、主従関係に対し寛容だ。主人の書斎に上がり紅茶を馳走してもらうなど本来はあり得ない。俺は他の家に仕えたことがないからわからないが、旧友に聞いたところここはかなり独特らしい。
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