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「世話係、というと語弊があるかな。正しくは話し相手になってほしいんだよ」
「……話し相手、ですか」
ますますわからない。俺は首を傾げる。俺が今「話し相手」にされようとしているスヴェン様のご子息は、いわゆる箱入りで一度も顔を合わせたことがない。噂によると極度の人見知りで、外に出ることはおろか家族とも顔を合わせないとか。敷地の離れを自分の城と言わんばかりに住まいとしているらしいが。
「オラトリオ。俺の息子が何故人前に出ないか知っているか」
「いえ……」
首を横に振った。家人が使えるべき家の内情に深入りすべきではないと思い、積極的に詮索したことはない。ご子息は「いる」という事実しか知らない。スヴェン様は重々しく溜息をついて言った。
「極端な人見知りなんだ。人との接し方をわかっていない」
人見知り。なんだ、けっこうかわいいところがあるじゃないか。当時の俺はそう思った。浅はかにも。
「十四にもなるのにこんな状態では、エリノワール家の人間として示しがつかぬ。頼むオラトリオ。まずは歳の近いお前から、あいつの……マルセルの心を開いてはくれないか」
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