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夜
僕はコンピューターの仕事をしていました。
連日の残業、重なる不節制、体重は100キロを超え、医者からこんな生活をあと5年続ければ命は無いと脅されていました。
友達も彼女も居ません。
時折、遊びにくる近所の黒猫の兄妹が唯一の友達でした。
いつでも遊びに来られるよう、窓をほんの少し開けておくのが日課でした。
その日は頭がずっと痛かったけど終電まで残業していました。
アパートに戻ったころは耐えられないほどの頭痛です。
垢で汚れたワイシャツを脱ぐこともなく万年床に倒れこみました。
頭痛はさらに酷くなりました。
あれ?天井にポスターなんて貼ってあったっけ?
そんな、覚えは無いよな、
なんのポスター?
誰の顔??
アイドル??
違う……
会社の先輩だ、
なんの先輩だったっけ、
あっ、くも膜下出血で急死した先輩だ、
なんでウチに居るの?
そうか、僕の頭の中も先輩と同じなんだね、
だから、出てきたんだ、
僕、このまま、死んじゃうんだね、
別にいいよ
もう、仕事に追われなくても良い
僕の周りの辛い事がみんななくなるんだ、
はやく、そうなって欲しい、
はやく、楽になりたい
先輩の顔は表情が無く、写真のように平面で白黒だった。
その顔が天井からぺろりと剥がれ落ち、ゆらゆらと僕の方に近づいてきた。
頭が痛くて、とても痛くて、身体が動かなくなっていました。
その時、黒猫の兄妹が窓の隙間から入ってきました。
いつもの「遊んで」で寝ている布団の上に飛び乗りました。
そして天井の異変に気付きました。
ぎゃゃゃゃゃゃ
この世のものとは思えない鳴き声で天井から近づいてくる顔に唸りはじめました。
黒猫の兄妹は僕の布団の周りを左回りに駆け出し始めました。
何度も何度もグルグル回り続けました。
そして、布団の四隅に来ると、漂いながら落ちてくる顔に向かって鋭く威嚇しました。
顔は僕のほんの1メートル手前まで迫ってきました。
先輩の顔は空中でゆらゆらと漂ってます。
僕の顔の手前1メートル、それより近寄ろうとすると、不思議な力で押し戻されてしまいます。
猫は必死で布団の周囲を駆け回り、顔を威嚇し続けました。
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