フル回転ネガティブハート

「ねーねー、ニュースニュース！！」
　バタバタと、廊下を凄まじい速度で駆けて来る女子がいる。
　クラスメイトの土田美香だ。　
　一人放送部。
　そうあだ名される美香の声はとても大きい。まだ廊下にいるのにすでに教室中にその声は響いている。
　その音量が跳ね上がった。…そう、美香が教室内に入ってきたのだ。
「今度くる転校生、男の子だってーー！」
　報告に、女子の何人かがちょっと黄色い声を上げた。それ以外は、へーとかほーとか、気のない相槌をする者が半分。残りは反応すらしない。
　月本浩子は反応しない組の一人だった。
「どんな子？」
「名前は？」
「顔とか見た？」
「んー。判んない。男の転校生が来るって聞いただけだから」
　美香の発言に、最初に食いついた者さえが落胆する。
　その反応に浩子は心の中で、なんて無駄なことを考えられるのだろうと嘆きを洩らした。
　まだ性別しか判らない転校生相手に、どうしてあんなに騒げるのだろう。
　確かに、女子としてイケメンが転校して来れば嬉しい。
　でも、それでいったいどうなるの？
　　だって転校生がイケメンなら、普通、彼女くらいいるでしょ。転校したって遠距離恋愛くらいするでしょ。
　仮に、遠距離になったらかつての彼女ともすぐ疎遠になる。そんな男は顔がよくてもお断り。
　だって確実に、後で自分も同じメに遭うから。
　そんなことはないなんて、楽観的なことは考えるのもアウト。可愛い子をフっちゃえるイケメンがそうじゃないコと長続きするなんて思えない。
　イケメンだけどフリーの場合は？
　そんなの、引く手数多の申し込み殺到。
　見るも無残一生彼氏なし…とまでは思わないけど、決して誇れる容姿じゃない。適齢期になった頃、女は顔じゃなくて愛嬌だからそっちで頑張れとか、自分の長所を見つけてどうにか…的なことを言われそうなタイプ。
　このスペックで、山と群がるだろうライバルを一蹴するなんて絶対無理。
　だから高望みなんてしないの。したってどうせ無駄だから。
　イケメン彼氏をゲットするには、果てしない努力かこの上ない天運が必要。
　というか、根本的には天運がものを言う。そう思ってる。　
　生まれつきの美人度や抜群のスタイルは、努力じゃどうにもならない部分だもの。
　一山いくら…程度の女子は、ホント、高望みなんてしないに限る。
　だって無駄に傷つくのは嫌だもの。