小説家

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「では村上さん、来月の上旬に出版と言う事で、宜しくお願いします」 目の前に座っている、僕の担当者の鈴木さんが言った。出版社の会議室の中は、クーラーが効いていて涼しすぎず、炎天下の中、出版社まで足を運んだ僕を心地よい風が癒してくれる。 会議室と言っても、テーブルがあり、それを挟んで折り畳み式のイスが二つあるだけで、後は部屋を入って真正面のイスとテーブルの奥の壁には時計が掛けており、左右の壁には最近出版されたばかりの小説や漫画のポスターが飾ってある。ここに僕の小説が貼り出されると思うと何とも言えない気持ちになる。 この出版社に来るのは、ちょうど昨年の今頃に初めて訪れた。二十歳の時に当時就いていた会社を辞め、小説に人生を賭けて早十数年。夢が叶った瞬間だった。高校生の時から小説を書いており、地元秋田の大手企業に就職するも小説家の夢が諦めきれず、小説を書いては名だたる出版社に持ち込みを繰り返していた。何度心が折れそうになったか。持ち込んでは駄目出しされ、向いていないと言われ。夢を諦めようかとも思った。 そんな時、最期これで駄目だったら諦めて、就職でもしようと思っていた矢先に訪れた出版社。 それがここ、秋吉出版だった。 担当してくれたのが目の前にいる鈴木さんだった。 第一印象は頼りないおじさんと言う雰囲気で、当時この人で大丈夫かとも思ったが、僕の小説を真剣に読んで下さり的確なアドバイスを頂いて、編集や校正をしていきながら来年の夏頃、出版出来るようにしましょうと言う事で僕の夢が叶った。
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