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男は世の中の全てを憎んでいた。
僅かに残る母の記憶も、育ててくれた祖父母も、通った学校の同窓生も、教師も、ただすれ違っただけの人間、果てはまだ見たことのない人間も、全て。
俺がこうなったのは全て奴等のせい。
全ての元凶は奴等。
勝手に自分を産んで勝手に捨てた“母親”と思うのもおぞましい女と、己の欲を満たす為だけに勝手に女を孕ませて捨てた、顔も見たことのない父親。
そんな男の母親である女もまた、男と同じく自身の両親を憎んでいた。
両親の悪い所だけを寄せ集めた様な醜い顔、出来の悪い頭。
自分とはまるで逆の、両親の良い所だけを吸いとって先に産まれた自身の姉と比較される日々。
『本当にあんたはお姉ちゃんの残りカス集めたみたいになっちゃったね』
我が耳を疑うような母の物とも思えぬ言葉にまだ幼かった頃の女は傷付き、決意した。
どんなに頑張ったところで頭を他人の物とすげ替える事は出来ない。
それならば。
この世に産まれ、女としての幸せを手に入れる為には顔を変えるしかない。
15で家を飛び出した女は若さを武器に身体を売り、稼いだ金で整形手術を受けた。
生まれ変わった女が、幼い男児を連れて実家に戻ったのはそれから数年後のことだった。
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