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「どういたしまして。あ、破れてんな。」
開里のレインコートが破れているのに気付いて、日下が言う。バサッ―――と、いきなり日下がレインコートを脱ぎ、それを開里の頭から被せた。
「先輩!?」
「よし。立てるか?」
狭い視界の中で日下が右手を出してきたので、開里が条件反射で握ると、ぐいっと引っ張られた。
「いっ―――」
「歩けそうにないな。」
そう言うと、日下が背を向けてしゃがむ。
まさか―――と、開里が固まると、日下がしゃがんだまま振り返る。
「ほら、乗れ。」
「いやいやいや、無茶ですよ。」
「雨宿りの場所までだから平気だって。おまえ、無理すると腫れて動けなくなるかもしれねえぜ。」
その通りだ。動けなくなれば留まるしかない。悠長に休んでいられないのだから、足を動かさないのが賢明な事は分かる。
分かるが、素直に背負われるのもできない。
動かない開里に察したのか、日下が分かりやすく不機嫌な顔をする。
「濡れるだろうが、早くしろ。」
「あぅ、すみません。」
見れば、日下の全身はずぶ濡れで、開里は諦めて膝を落とした。
「行くぞ。」
ひょいっ―――と、あまり力が入っていないような素振りで日下が立ち上がる。ふわっと浮遊する感覚に、開里は慌てて目の前の肩にしがみついた。
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