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2、
なだらかな登り坂が続き、地味に堪える。ママチャリで山を越えるのは自殺行為な気がしてきた。
せめてバイクがどこかに転がっていないかと探したが、見かける物全てが黒焦げだ。ガソリンに引火したのだろう。そんな中、奇跡的に無事だったのが、この2台のママチャリ。ママチャリ強し。
「そろそろ休憩しようぜ。」
体力のない開里の様子を見かねたのか、日下がペダルを止めて振り返る。まだまだ余裕のありそうな表情に苛立った。
ムッ―――となる開里の返事を聞かずに、日下がママチャリを降りて、キョロキョロと辺りを見渡す。休憩場所を探しているのだろう。
―――こんな調子では無理だな。
日下のもたらした情報によると、広島まで行けば救助の手があると云う話だ。
詳しい事は分からないが、アメリカから救助部隊が派遣されているらしい。開里たちのいる九州から一番近い救助場所が広島で、ママチャリにて出発したのが一昨日の事。
体力の有り余っている日下ひとりなら、既に北九州辺りまで行っていたかもしれないが、二人は未だに県内から出れずにモタモタしていた。
「日下先輩、オレの事は気にせず、先に行ってください。」
日下が頷く筈もない事は分かっていたが、疲れもピークで無意識の内に開里の口からは言葉が零れていた。
「え~、そんな事、言うなよ。オレ、寂しがり屋たから、ひとりじゃ死んじゃう。」
「うざいです。」
「わぁお、グサッてきた。胸が痛い。」
日下が胸を押さえて、傷付いたフリをして見せる。そんな態度に、苛立ちが増した。
「もう嫌なんですよ。お荷物になるくらいなら、ひとりでいた方がマシです。」
そんな訳はない。
ひとりは嫌だ。体力的にはもちろん、精神的にも潰れてしまうのは目に見えている。
でも、日下に頼りっぱなしの現状に腹が立って仕方ないのだ。自分への苛立ちと、日下への反発心で頭はぐちゃくちゃ。
「開里、大丈夫。」
静かな声が落ちてきた。
開里が顔を上げると、日下が困ったように、仕方ない子供を見るように微笑む。
「オレが守ってやるから。」
日下の懐かしい言葉に、開里は過去へと引きずり込まれ、クラリと目眩を感じた。
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