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3、
8歳の時の開里は、軽いいじめに合っていた。
傷を追うほどひどい事をされる訳ではなく、ペアになるのを嫌がられるとか、休み時間は大抵ひとりだとか、その程度の話。
何かをした覚えはなかったが、みんなに嫌われているのだから、きっと自分が悪いはずだ。
そして、今日はいつもより少しだけ、みんなの機嫌が悪かった。それだけ。
グズグス―――と、アサガオを見ながら開里が泣いていると、場に似合わない明るい声が乱入してきた。
「そこのおまえ、泣いてんのか?」
開里が振り向くと、活発そうに日焼けした上級生がボールを片手に立っていた。
「わ、アサガオ、どうしたんだよ。落としたのか?」
引っくり返っているアサガオを見て、上級生が慌てて近寄ってきた。急に話しかけられ固まる開里の隣にしゃがみ込む。
上級生は戸惑う事なく手を伸ばし、多少乱暴な仕草でアサガオを起こすと、地面に落ちた土を集め始めた。
「ほら、手伝えよ。」
「あ、うん。」
上級生にせかされ、開里も焦りながら一緒に土を拾って、鉢に戻した。
「そんくらいで泣くなよな。アサガオ強いんだから、大丈夫だって。」
「そうなの?」
「そうそう。ほら、元通りだろ?」
元通りとは言い難かったが、アサガオはどうにか鉢に収まっていた。ほっとなる。
「ありがとう、ございます。」
「ああ。ぼうっとして、また落とすなよ。」
「からかわれて。」
今思えば、誰かに聞いて欲しかったのだと思う。親にも先生にも言えず、何でもない顔をするのはすでに限界だった。
「あ?これ、誰かにされたのか?」
「クラスの。」
からかわれてアサガオをわざと落とされた事、クラスでいつも嫌な目に合っている事を、開里はしどろもどろに話してしまった。
「オレ、4年2組の日下大地な。おまえは?」
「あ、えっと、2年5組、松田開里。」
突然の自己紹介に反射的に答えると、上級生―――大地が土のついたままの手で、開里の頭をポンボンと撫でる。パラパラと土が落ちて顔に落ちてきて、開里は目を細めた。
「何かあったらオレんとこ来い。開里。おまえは、オレが守ってやる。」
地味な虐めキャラの開里の前に、颯爽とヒーローが現れたのだった。
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