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5、
さぁさぁと雨が降っている。
霞がかったように視界は悪く、レインコートを着ているとはいえ開里の体は冷えきっていた。
今日は止めよう―――と、言った日下を押し退けてまで、無理に出発したのは開里だった。その為、雨宿りを言い出しにくく、迷っている間に状況は一転した。
―――あ、マズイ。
ズルッ―――と、自転車のタイヤが滑り、開里は派手に転んだ。体の左側から地面に落ち、痛みに呻く。
「うぅっ―――」
「開里!?」
前を走っていた日下が気付き、開里の名を叫び、引き返してくる。情けなさと痛みで泣きそうになるが、子供のように泣く訳にもいかない。
レインコートは破れてしまったらしく、左側から服が濡れていく。
「冷た。」
特に痛む左膝を見ると、ズボンが破れて出血しているのが見えた。雨水と混じり合い、赤い水が滴り落ちる。
「開里、大丈夫か?」
日下が背負っていたバックパックを下ろして、開里の横に膝をついた。バックの中が濡れるのも構わず、全開にしてフェイスタオルを探し出すと、開里の膝に手早く巻く。
「痛むか?」
「あ、ありがとう、ございます。」
どんな顔をしていいか分からず、開里はモゴモゴと礼を言った。
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