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も脚に違和感を覚える。
「脚が、重たいな」
下に目をやると、鉄の球が括り付けられている。
「おぉ、忘れてたよ。足枷がまだ付いていたんだね。道理で重たい訳だ。」
男は足枷を青年の脚に付け替え檻へと入れる。そしておもむろに刃物を取り出し、腹へと突き刺す。
「いつもはこうして刃物を刺して、徐々に衰弱していくのを眺めながら、夜明けと共に滅多刺しにして命を閉じるんだけど、今回は時間があるからね。最後まで経過を見届けられそうだ。」
「じゅ…人格か…。」
「ん? 何?」
「お前は…二重人格…か…?」
「あぁ、ミリガンの話かぁ。あれは面白い話だったけど残念、俺は素面だよ。」
「そう…か…。」
「人の観察は〝無意識的〟にじゃできないんだよ。ちゃんと、自分の感覚でなければ、ね。ましてや人の感覚なんてご法度だ」
冷たい表情でそう吐き捨てた後、男は檻を出る。一度部屋の奥へと進み、何かを机に置いた後、再度檻を見つめる。
「ふぅ、今回は自分の部屋だからなぁ。観察が終わった後に片付けしないと、指紋も消さないとなぁ、面倒だ。」
そういいながら男は伸びをして、台所から取ってきたコーヒーの粉の入ったカップにお湯を注ぎ自らの口へ傾ける。
「最後に俺の名前を教えよう。観察をする対象物に僕が必ず行う流儀だ。僕の名前は〝宮下 叫介〟 宜しくね。」
妹を殺した犯人の名を漸く知れた。だが、彼が男の名を知るのは、少し遅すぎた。
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